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そんな月曜日

 店主日記なので日記である。

店主はもう廃業したので、ただの日記である。

 

日曜日に仕事でお世話になっている山下さん(仮名)と

釣りに出る。八王子の山の中だ。恩田川という川を

仕切って作られた管理釣り場である。日曜日とあって

ひとがごった返している。ほとんどが、貸し竿の竹に

赤と黄色のちいさなウキしかけでやっているので、

釣り上げたところをみたことがない。

が、わたしは、渓流竿に0.5号という細いみちいとに

ちいさな針という本格派、装備が歴然である。

 

山下さんは、竿をもっていないので、

このあいだは貸してあげたけど、一本、竿を折っていた

わたしは、アマゾンで手ごろな渓流竿を購入して

かれの家に送っておいた。

6000円くらいの中級品である。

 

と、かれから「いつもすみません」という返事。

アマゾンで買ってくれたんですか、おいくらでした、

とか、いっさい返事はなかったのだから、

竿代は、勝手にわたしがした、個人責任なのだろう、

とおもった。

 

いざ、竿を出してみると、魚は目の前をゆうゆう

泳いでいるものの、まったく釣れない。

餌はぶどうむしという、蚕の幼虫のようなもの。

 

わかいカップルは、その虫をさわるのさえ

躊躇しているすがたもあった。

 

で、わたしは用意していたマグロの切り身で

流していたらようやく釣れた。

 

係り員に聞くと、水温が20度を越したので

まず釣れないだろうと言っていた。

 

釣れないとわかってこの仕事をする気持ちは

どうなんだろう、でも、目の前に何匹も魚影があって

悠然と泳いでいるところを目の当たりにしているので、

釣り客はじぶんの才能のなさを

自覚するのだろう、だれも文句をいうひとはいない。

 

けっきょくわたしは大物2匹を逃したが、

11匹釣ることができた。

 

山下さんは、3匹だったが、網からだしたら

2匹逃がしていたらしい。

で、わたしがひとつ40センチくらいのニジマスを

進呈した。が、あまり感謝の言葉はなかった。

 

山下さんは、ひどく人柄もよくてわたしは

とても好きなタイプの方だけれど、感謝という

姿勢はひとより劣っているかもしれなかった。

 

家に電話すると「釣れた?」と妻。

「うーん、11匹。喫茶店によって二匹あげたし、

山下さんに一匹あげたから9匹ね、大きいのが3匹」

「大きいのいらないよ」

「いらないよって言ったって連れちゃったんだから」

 

帰宅し、その日はぐったり家で休んで、

翌日になる。翌朝、すぐに妻が、ニジマスのから揚げを

もってきてくれた。

 

ニジマスは淡泊でから揚げが最適だとおもった。

 

と、10時すぎに妻がわたしの家のドアをあけ、

これから買い物に行くので付き合ってほしいという。

 

こちらも、食糧が減ってきたのでスーパーに行き、

その足で昼飯を妻とともにすることになった。

 

「わたし、朝、ニジマス食べちゃったから、昼、

いらないかな」

 

「あ、おれもそんなにおなかすいてない」

 

「でも、さっぱり麺かな、でも、いらないかな」

 

こういうなんとなく、というときがあるものだ。

昼をスルーすることもできるし、目の前にあれば、

ちょっとつまみたくなる、これが人情というものだ。

 

で、わたしの提案で、ラーメンを半分にわけ、あと

てきとーになにかをつまむ、ということで話はきまり、

バーミヤンという店に。

 

で、けっきょく、ワンタンメンと餃子という

一人前のものを二人でわけて食べることにする。

 

彼女は、ラーメンがたべたいのだから、

お前、好きなだけとってよいということで

小皿にラーメンをとる。

 

「おつゆもとっていい?」

 

「当たり前だろ、ラーメンなんだからどんどん、

ワンタンもとれよ」

 

「もらった」

 

「おれ、餃子たのんだけど、すこしいる?」

 

「じゃひとつ」

わたしは二つの餃子を、別の取り皿にいれる。

 

ラーメンは、よく煮てないのか、ざらざらした麺で、

これは完全に作り方が間違っている。

こんな安い商品なんてテキトーにしてやろう、

そう調理がそうおもわなくても、食べている客は

そうおもうものだ。バーミヤンの関係者がいたら、

注意してもらいたいものだ。碑文谷店。

 

で、食べながら、わたしは妻に言った。

 

「これさ、まわりからみたら

ものすごい仲のいい夫婦に見えるよな」

と、妻はすこし笑って

「なんか貧乏人が食事に来てるみたいね。

餃子も分け合って、ラーメンも半分わけて」

 

ま、たしかに金持ちではないけれど。

そんな月曜日がはじまったのだ。