どこぞのカフェで
前にいるひとが注文している。
「えっと、ミルクはソイにして、
シロップはヘーゼルナッツ追加でぇ、
え、ミルクフォーム多め、えっと、ショット追加で・・」
な、めんどくさいだろって授業で語っていたら
前の男子生徒さんが
「スタバってそういうところじゃないですか」って切り出した。
まわりの生徒さんもクスクス笑う。
「え、そうなんだ」
「僕なんか、コーヒーだめだから
フラペチーノにホイップ多めで頼みますよ」
と言った。
ああ、フラペチーノね、と
ここからわたしの昔ばなしがはじまる。
まず、スターバックスができ始めたのは
たしか、いまかか35年くらい前ではなかったろうか。
青葉台の東急デパートの片隅に
壁によりそうようにできたカフェである。
ろくに店舗展開しない、かわった店だなって
おもっていた。
イワツバメの巣ではあるまいし、なんてね。
で、その当時の生徒さんに
「きみ、きょうの昼はどこ行った?」と
訊いたら、「スタバ」って答える。
「スタバ?」
わたしはすぐにはおもいつかず、「すた場」という
蕎麦屋かなんかの店かとおもったが、
すぐに「ああ、スターバックスだろ」と言ったら
「そうです」と言うから、「あのね、省略したらわかんないよ」と
わたしは言った。
「で、そこで何食べたの」と訊くと「ベーグル!」と言う。
「は? ベーグル? 省略したらわかんないよ」とわたしが言うと
「省略じゃありませんよ」と。
え。わたしの知らないうちに、そんな知らないものが
わたしの足元にまで忍び寄ってきたのか、と
リマーカブル・プログレス、
文化の発展にいささか驚いたものだった。
で、向学心旺盛だったわたしは、
その夜、スターバックスによりベーグルなるものを
食べてみた。
その食べ物は、真ん中に穴があいている
座布団のようなものだった。
なんだよ、痔の座布団みたいじゃないか、っておもいつつ
ひとくち、中にはうすい鮭の切り身がはいっている。
が、口に含むや、口中の水分をしこたまもってゆかれ、
わたしの口はからからになった。
なんだ、この食い物は、とおもった。
スターバックスでは、フラペチーノと呼んでいるシロモノは
むかし、鎌田に和蘭豆(ランズ)という店があって、
そこでは、モカフロスティーと呼んでいたものである。
いまの若者はだれもしらないだろう。
何年か前に高校一年生を教えていたことがあったが、
ICUに通っている女子高生がむやみに出来て、
かつ、明るい子がいた。
「きみがくると教室があかるくなって良いよ」
とわたしが言うと「それって、バカにしてるんですか」
と、彼女が訊いてきた。
「いや、ちがうよ、うん、
ほら、スターバックスの氷の飲み物、
ほれ、氷のゲロみたいなやつあるじゃん」
もちろん、わたしはフラペチーノという名を
知悉していいるが、わざと言わないのが
プロの語りというものなのだ。
「そう、そのゲロの上にホイップクリーム乗せると
うれしいじゃん、きみはそのホイップクリームの
ような存在なんだよ」
と、わたしが言うと、彼女は言下にこう答えた。
「じゃ、まわりの子たちはゲロですか?」
「・・・」
その話をしたら、昨日の教室は爆笑の渦となった。
あ、いけね。授業だ。