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霊感と石焼き芋

霊感の強いひと、これがけっこういるのだ。

アルバイトの麻衣は大学三年生、

バレー同好会に所属している。

この子がさいきんよく見るのである。

仕事をしていると知らないおじさんが

目の前をよこぎったり、手だけが麻衣の

足首をつかんでいたり、いちどは、

ドアを開けたら、そのおじさんが飛びかかってきたという。

試合会場にまで、

おそらく同一人物なのだろうが、来ている。

監督の横にちゃっかり体育の座り方で座っているという。

で、麻衣は、

「ねえ、あそこに座っている人、誰?」って訊くと、周りの仲間は、

「え? どこ?」

 誰にもみえないのだ。

 自宅にも来ているらしい。

二階の窓のところから、

このときは誰かはわからなかったそうだが、

何者かがこちらをじっと見ている(らしい)。

家のひとに言っても信じてもらえない。

が、犬だけはずうっと吠えていたという。

 

 このあいだ夏合宿があった。

九十九里浜、横芝という海沿いの町である。

なにしろ大学のサークルの合宿だから、

四泊五日の合宿は、毎晩、飲み会になる。

夜中の三時ごろまで飲み明かして、

翌日、六時半から練習する。

さすがに大学生は体力がある。

ある晩、飲んでいながらみんなで海に行こう、

ということになり、男女総出で海に行った。

夜中の二時である。海に向かう途中、

彼女はなんだかとてもいやな予感がしたと言う。

行きたくない、という気持ちがなんども麻衣の歩みを止めた。

砂浜に着くと、夜中の二時をまわっているから、

あたりは真っ暗でなにも見えないけれど、

ひどくたくさんのひとがいるのだ。

いや、ひとがいる、というのでなくたくさんのひとの気配がする、

と言ったほうが正しい。麻衣は隣の子に、

「夜なのに、なんでこんなにたくさんひとがいるんだろうね」

と、話しかけたら、

「あんたね、それ以上しゃべらないで黙ってて」

 と、言われたそうだ。

 水のあるところにはきっと霊が集まるんだろう。

 

 麻衣の話でなく、万理子の話をする。

この子も霊感が強い。

大岡山の駅で小学校の同級生に会った。

久しぶり、元気ぃ。なんて会話をして、

電車に乗って次の駅、洗足で万里子は降り、

ともだちはそのまま目黒方面に乗っていった。

話はそれまでなのだが、あとで知ったことなのだが、

大岡山で会った子は、じつは三ヶ月前に首を

吊って自殺していたのだ。死んだ子に会ってしまったのである。

 

 そういえば、私だけがしゃべっていて、

あの子はただ、うんうん、とうなずいていただけだったの。

 と万里子は語る。

それに、あの子だって家は洗足なのに、

電車に乗ったまま行っちゃった。

 

いじめを苦にした自殺だったという。

 その万里子だが、さいきん大岡山の

八百屋で石焼き芋を買って食べたと言うのだ。

「あそこの石焼き芋、安くておいしいですよね」って、言うから、

「いつ買ったのよ?」

「たしか、七月の真ん中ころ」

「それ、まずいなあ」

「なにがですか」

「あのさ。その店、とっくにつぶれているよ」

「え。でも、わたし一本買って、お母さんと半分ずつ食べたけど」

「いや。そんなはずないよ。あの店はね、

五月におじさん脳梗塞で倒れて、店たたんでんだよ」

「えー。やだあ。じゃ、わたし何、食べたの?」

「知らないよ。だいいち、

七月に石焼き芋なんてあるはずないじゃないか」

「ほんとですよね。いやだぁ」

 と、言いながら、ひどく驚くわけでもなく、

万里子は不思議そうな顔をしていた。

石焼き芋を売っているのは大岡山ではその店だけだし、

万里子が唐突にそんなウソを言うのも理解しがたい。

いったい、あの子はなにを買い、

何を食べたのか。それとも母子ともども、

なにかの妄想だったのか。

不可思議なことはあるものである。

 

 先日、わたしは、八百屋の迎えにある

飲み屋でビールを飲みながら、

この不可解な万里子の話をマスターにした。

「ところでさ、あのおじさん、いまどうしてるんですか」

マスターはこちらをのぞき込むよう低い声で言った。

「亡くなっていますよ」