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コマのプー 猫を釣る

 

知人に「コマツ」さんがいる。

 

コマツさんは、ちょっとビンラディンに似てるんで、

コマツビンラディンと呼ばれる。

あるいは、 あんまりにも吝嗇(リンショクと読む、つまりケチ)なんで、

まるでプー太郎とおんなじじゃん、

ということで、 「コマのプー」とも呼ばれている。

 

で、このコマのプーさん、釣りに行き、「ごんずい」を釣った。

 まだ、コマのプーさんが初心者だったころ。

風が強いとじぶんの仕掛けがじぶんに戻らないで、

鯉のぼりみたいにヒラヒラするのね。

で、それを取ろうするんだけど、

なかなか取れない、それも夜中。


彼は、右手に竿をもち、ひだり手を高く空にむけ、

じぶんのエサが手許にくるのをじっと待っている。

だが、なかなか、手許に来ない。

不動の姿勢。それをはたで見ていると、

なんかギリシア彫刻みたいで おかしかった。

 

「タモ」というのは魚を釣り上げたときに

使用する網のことである。

 わたしどもは、タモの輪っかだけでも

チタン製などのものを使うので2万円くらい

するから、それに竿のようなものをつければ

4、5万円はするシロモノ。

だが、プーさんはケチだから、

タモすべてで2千円のものをつかっている

 

 やはり、夜中の堤防であった。

 

「なんか、釣れました」

プーさん竿を曲げながら手は小刻みに震えている。

水面をみると魚がぴちゃぴちゃしている。

 

「じゃ、タモ貸してください」

わたしがプーさんの二千円を持ってすくおうしたが、

なかなか魚が網に入ってくれない。

おかしいな、とおもってなんども魚のほうに

網をむけるが捕れないのだ。

 

と、気づくと網は柄から取れて

ぶくぶくと水中に沈んでしまった。

安いうえに適当に装着していたから

ねじが緩んで取れてしまったのだ。

 

「コマツさん、網、取れちゃったよ」

と、わたしはプーさんにただの柄だけになった

タモを渡したのだ。

 

安物はダメだね。


 「ごんずい」って毒があって、

やたらには触れないんで、プーさん、

もたもたしていたら、なんと、すきをついて子猫が

「ごんずい」くわえて逃げていったのだ。

こりゃたいへん、コマのプーはあわてて竿をふりあげた。

 なにしろ、じぶんのものに固執するのは、天下一品。

 

フランス旅行で、バイクの二人ずれの盗賊に

リュックをひったくられたとき、

石畳のうえをずるずる引きずられても、

けしてリュックから手を放さなかったという、

豪傑というより、やはり吝嗇の権化みたいなひと。

 だから、猫に「ごんずい」取られたとあったら、

たいへん。 執着心すこぶる強し、

身体が勝手に反応すんだね。

「ごんずい」はまだ、針にかかったままだから、

ふりあげた竿には、「ごんずい」をくわえた猫が、

ぶーんと大の字になって空に舞いあがった。

 

コマのプー、猫を釣る。


 太公望はやまほどいても、

猫を釣ったのは コマのプーだけである。