昼飯をじぶんの机で食べるのは好きじゃない。
一日にたった三回しかない「食事」という
本能的所作は、やっぱり職場から
開放されたところでとねがうのはとうぜんだ。
休憩室があれば、そこでとればいいが、
それもない、となれば、ちょっと外出して、
公園のベンチに腰掛けて、なんていうのもオツでしょ。
さいわい、いまの職場のとなりに、
松蔭神社があり、その境内が公園となっている。
わたしは、空いていたひとつのベンチに座り、
持参の弁当をひろげた。
ベンチに座ったのはいいが、
ちょっとベンチをさすってみたら、
食べ物の残り汁なのか、樹液なのか、
表面がべっとりしているのだ。
「わっ。これ座れないや」
わたしは、おもわず立ち上がり、独り言を漏らした。
すると、となりのベンチにいた作業服のおじさんが、
「ここのベンチは汚いからよごれるよ、先生」
と、声をかけてきた。
「ほら、こんなふうに敷かなくちゃ」
と、作業着の下に紙を置いている。
「あ、そうですね、なるほど」
わたしは、それでもいくらかはきれいなベンチに移動し、
こんどは弁当を包んでいた布きれを敷いて
ひとり昼食をとった。
鳩が二羽よってきた。
比較的軽量の弁当なので、
さっさとすまし、仕事場にもどろうと歩きだすと、
まだ、さっきのおじさんが、
立てひざをつきながらベンチで
タバコをくゆらせていた。わ
たしがそちらに目を向けると、そのひともわたしを見た。
わたしが軽く会釈をすると、
むこうもほほえんで頭をさげてくれた。
ところで、
「ここのベンチは汚いからよごれるよ、先生」
ってなんで「先生」ってわかったんだろ。