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夫婦の会話 

「だからわたしはいやだったのよ」

「いまさら、そんなこと言ったって、

もうどうしようもないだろ」

「だいたい、いつもあなたが勝手に決めて、

好きなようにしてきたんじゃない」

「でも、おまえだってこうやってついてきたんじゃないか、

すこしは協力しろよ」

「協力? してるじゃない」

「してるかよ。文句ばかりいいながら。

協力もあったもんじゃない」

「だいたいね。いままでに、

いくらお金使ってきたのよ、三千万? 四千万?」

「そりゃ、こんな船買ったんだから、金かかるさ」

「べつにね、あなたが好きなことするのはいいけど、

ローンまで組んで買うことなかったんじゃないの」

「そりゃ借金しなきゃ、こんな船買えないにきまってるじゃないか」

「じぶんだけでするのはいいけど、

わたしや家族を巻き添えにするのはやめてくれる」

「巻き添えって、おまえたちも楽しむかとおもってやったことだし、

じぶんのためだけじゃない、そんなこともわかんないのか」

「家族のため? じぶんの趣味なんじゃない」

「それもあるけど、子供たちのことだって考えてるさ」

「そうかしら、子育てだって、

わたしが一人でやったし、

あなたは日曜日のたんびにバドミントンに行って」

「バドミントンしに行ったのは二年間くらいだぞ、

十五年前のはなしをいつまで言い続けるんだ」

「だいたいね、あなたはじぶんの

おもいどおりにならないと気がすまない性格だから、

年上の人の友達がいないのよ。

年下か、女だけじゃない、

あなたにつきあってくれる人。

みんな、はい、はい、っていいなりになる人だけよ。

年下か、女だけじゃない」

「こんなところで友達づきあいの

はなしをしたってしかたないだろ」

「わたしはずれていないから、

ちゃんと年上の友達もいるわ」

「ずれる、ずれていないってなんだよ。

だいいち、だれがそれを決めているんだ」

「わたしが決めている」

「へぇー、おまえ偉いな。

ひとがずれているとかそうでないとか、

おまえにはわかるんだ」

「そーよ。あなたより、わたしのほうがずれていないから」

「じゃ、おれにどうしろって言いたいんだ」

「性格変えれば。お母様といっしょに」

「なんでこんなところでおふくろがでてくるんだ」

「お母様といっしょよ、

あなたの性格。みんなを攻撃して、

だからお母様だって友達がいないじゃない」

「友達がいるとか、いないとか、

それがどんな価値があるんだか」

「子供たちだって友達がいて、よかったわよ。あなたと違って」

「おれは友達なんてべつにいらないし」

「でしょ。あんたなんか、死ななきゃ直らないわよ」

「わかりましたよ。死ななきゃ直らないよ、

でもな、ここでそんなはなししてるばあいじゃないだろ、

どんどん船は流されてるんだぞ、無線も使えないし」

「だからわたしは反対だったのよ、きょう海に出るの」

「何べん言ったらわかんだよ。

いまは反対とか賛成とか言ってるばあいじゃないんだ」

「大声出せばいいってもんじゃないでしょ、

お友達でも呼んで、助けてもらったらいいじゃない。

たくさんいるお友達」

「そんな皮肉を言ってるばあいか。

いまはな、おれたちはどうやって岸にもどるか、

それを考えるべきだろうが」

「偉っそうに。だからいやだったのよこんなとこ来るの」

「はいはい、偉くてすみませんね。

おれを批判するのはいつでもできるがな、

もう船出しちゃったんだから、

しかたないだろ、いま、いまな、先決なのは、お

れたちが助かることだから、おれを批判するのはそのあとにしてくれ」

「また、偉っそうに」

 

女は現在より過去を見つめ後悔し、

男は現在から未来を見つめ作業をする。

現在から未来を見つめる横で、しなきゃよかった、

しなきゃよかった、あんたの性格が悪い、死ね、

と耳元で四六時中騒がれるのだ。

夫婦喧嘩とは、こういうもので、

これがエンエン続けられる。

こういう状況を専門的に言えば「たまったもんじゃない」と言う。

 

 ところで、いまの夫婦の会話はもちろん

フィックションである。

船買うくらいなら車買ってるさ。