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ひかりの海

 「ひかりの海」という絵本が完成された。

  出版元は、東京法令出版株式会社。



 ユキコの夫ノブオさんは、人間魚雷の回天に乗り他界する。
ユキコは、人間魚雷がなんなのかも知らないまま、
終戦の半月後に、兵庫県の自宅に夫の訃報が届けらる。


 文は、佐藤溯芳さん。さっぽう、と読む。
 絵は、熊谷まち子さん。

 絵は、やさしいタッチのいかにも絵本作家という描き方。


 文章も、平易で簡潔で、これも絵本らしい。

 いま、この本が山口県のある地域、具体的には、
ひかり市あたりで話題となり、子どもに読み聞かせがあったり、
行政が乗り出し、児童に配布したりしているそうだ。


 さまざな機関の推薦図書ともなっている。


 わたしは、この企画に参画している
ある女性と知り合いなので、
この本を東京でも広めたいと願う彼女のために、
地元の小学校に出向いて、
この本を推薦しなくてはならないのだ。


 「あれから10年が過ぎ、日本は平和をとりもどしました。
そのころ、アメリカ人の元艦長が、平和の研究をつづけるなかで、
太平洋でじぶんと死闘をくりひろげた「回天」の搭乗員が、
ノブオであったことをつきとめました。(中略)
 ノブオののった「回天」は勇かんに艦長さんの船にむかって
いきましたが、おいつくことはできなかったそうです」
 (『ひかりの海』より)


 夫は、海の底の藻屑となっていったのである。

 日本の負の遺産として、こういう話を子どもたちに
語りつないでゆこうとする行為は悪いことではない。

 そして、この本のエンディングはこうである。


 「かなしい出来事が いまでも毎日 おきています」
 「命や心は ただひとつ けっして 
  人も自分も 傷つけてはなりません」
 「命の歌や 心の歌を 世界のみんなで合唱できる
  平和な世界を」
 
 それが いまの ユキコの ねがいです ♪ ♫ ♪
 (『ひかりの海』より)


 なにも間違いはない。平和を希求することは
万人共通、崇高なことである。

 ユキコの結婚生活は10日にも満たなかった。
そしてノブオが戦死して70年、ユキコの願いは世界平和である。

 正しい。

 しかし、最後の「♪ ♫ ♪」はなんなのか。


 音符が三つ並んでこの哀しい絵本は終わるのだが、
なにゆえの音符なのだ。

 企画者の知人の女性も、絵を担当した熊谷さんも、
また、この本にかかわるひとのほとんどが、
最後の記号がいらないのではないかと、
作家の佐藤さんに進言したそうだ。

 たしかに、現在は絵文字文化ではある。

 (笑い) なんかも絵文字にカテゴライズされるだろう。
絵文字がなければ伝えられないなら、
わたしは、その文は価値のないものではないか、
すこし大げさに言えば、そのくらいにおもっている。

 もともと、過不足なく文章は語れるものではない。
言いすぎたり、言い足りなかったり、
しかし、それを絵文字で補うという発想は、
文字に対する冒涜だと、わたしはそうもおもう。


 ましてや、文筆家を名乗るいじょう、
「♪」で締めくくるなよ。言葉を大事にしようよ。


 まるで、悲しかったけれど、最後は「ジャンジャン」みたいじゃん。
はしたなくはないのかな。


 ところが、佐藤さんは、ここはけっして譲れない、
そう言い切って、強行突破、いまのカタチとして
発刊されたのである。


 わたしは、この「ジャンジャン」をもって学校に
行かねばならない。


 不謹慎を承知でものを申すが、
さながら特攻隊のような気分なのだ。