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タンポポが生えていた

毎日鼻血がでる。

だいたい夕方なのだが、それが、ほとんど毎日なのだ。


理由はわからない。

花粉症なのか、
それともかんがえたくないが、
福島からのあのおそろしい物質のせいか。

だいたい7、8分は止まらないので、
止まるまではじっとしていなくてはならない。
けっこう続くから、
それなりの量が見込めるのであるが。


ところが、きょうは日課の
5キロのジョギング中にそれが訪れた。

なんとなく鼻が濡れているな、とおもったら、
すでに生ぬるく錆び臭いものが垂れてきた。

まずい。

そりゃまずいよ、ジョギング中の所持品は、
携帯と財布だけだ。

タオルもなければ、ちり紙などあるはずもない。

わたしは、走りながら、
人差し指を鼻の穴につっこんだ。

だが、これはうまくゆかない。
すぐに手が赤く染まってしまう。

まるでホラー映画だ。

両方の手が血だらけ、
でも、拭くものがない。
鼻血は依然としてたらたら生産されている。

おそらく顔も返り血を浴びているだろう。
なにしろ鏡もない。

それでもわたしは走っていた。

と、舗道のすみっこに
タンポポが生えているのが目に入った。

さすがに春である。
野生のタンポポはすくすくと黄色の花をつけている。

やむをえず、わたしはそのタンポポをちぎり、
まるめて鼻に詰めた。

溺れるものは藁をもつかむ。
いや、溺れるものはタンポポも詰める。

もう、なりふりはかまっていられない。

すれちがった初老のおじさんが
「だいじょうぶですか」
って声をかけてくれたのも、
よほどわたしの姿が凄惨・壮絶だったせいだろう。


血だらけで走りつづけるタンポポ男。


ばかだね。


700メートル先に公園があり、
わたしはようやくトイレットペーパーをゲット。
それをくるくる丸めて
それからは早歩きに変えて帰宅する。


だから、最後の2キロくらいは
わたしは鼻に紙を詰めながらの
ウォーキングだった。

でも、だれもわたしが気にならないとみえて、
みんなネグレクトして通りすぎた。

家に帰るや、
三階から妻と娘が降りてくるときだった。

具合がわるいときは
タイミングまでパッドタイミングだ。

ジャージ姿で鼻に詰め物をした夫や父は
とうぜん、好意的には見てもらえず、
なんか二、三の捨て台詞を言われ、
そしてわたしは部屋に戻った。


でも、タンポポを詰めたところだけは
家族に見られずに済んだのがゆいいつの救いだった。

(2011.4.6)