Menu

当店は閉店しました

店舗案内

模擬授業

この歳で、高校の講師の依頼がくる。

週に4コマだし、東京の私立だから

比較的ちかくだから、しぶしぶながら引き受けることにした。

 

もう、採点も評価もめんどうだからである。

 

と、その学校から、面接&模擬授業がみたいと言ってきた。

 

模擬授業、もう何十年もしたことがない。

25年ぶりかもしれない。

 

人材派遣の若い社員さんが

つきあってくれてわたしどもは

高校に行く。

 

対応してくれた方は、人事の先生と

国語科の主任の先生だった。

 

わたしの経歴をみて、人事の先生は

ずいぶんご立派なことみたいなおべっかを

おっしゃっていたが、しかし、べつに虚偽ではない。

 

高校教師を32年、塾生活48年目だから

これはベテランである。

 

そうしてすぐに授業を拝見したいということになり、

前もって準備しろと言われていたが、わたしは手ぶらである。

 

で、主任の先生に

「わたしはなにも準備していません。

すみませんが、お題をふっていただけませんか」と

お願いした。

 

と、温厚そうな主任は「じゃ、小説で」

というので、わたしはさっそく黒板に「小説」と書いて

話しはじめる。

「小説は評論とちがうところがいくつかありますが、

まず、〇〇の研究、ここだとおもいます」と板書して

「では、あなた、この〇〇になにがはいると

おもいますか」とわたしは人事の先生にたずねた。

 

かれがなんと言ったか失念したが、かれの答えを板書した。

そして主任にもきいた。と、主任は「表現」と答えた。

「はい、どちらも間違いではありませんし、

どれが正解かもはっきりしませんが、わたしは

『人間の研究』だとおもっています」

ま、小説だから人間の研究だろう。丸谷才一さんも

そう言っていたし。

 

模擬授業というのは、上から目線の審査である。が、

こうやって審査員に答えさせて、正解が言えないことで、

マウントを取れるという仕掛けである。

 

そのあと、木村哲也という予備校講師に指南した

小説のノウハウについて15分ほど語り、

模擬授業はおわった。

 

わたしは、普段の授業の延長だから、

べつに緊張もしないし、

最後に、もし、もっと若い先生がいたら、

その人と代わってくださいとお願いして面談は終了した。

 

人材派遣のわかい社員も、

わたしも先生のように方に教わりたかったです、とか、

どこまでがほんとうのことかわからないが、

そういわれて、わたしは、じぶんの役目を終えて、

その日の授業である大船に向かったのだ。

 

ちなみに、木村哲也はわたしの話を

ベースに二冊目の参考書を書いた。

 

まったくのパクリなのだし、

給料もわたしの三倍くらいもらっているのに、

だから、河合塾の国語も、そんなもんか、と

そうおもうようにしている。