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店主日記

初恋の来た店

 小学校の同級生がハワイに永住している。

それまではイギリスに住んでいたのだが、

なぜ、ハワイかといえば、暖かいからだそうだ。

 かれは、寒いのが苦手なのである。

 

 ハワイといっておもいだす映画は、

「ホノカワボーイ」である。

 

 ハワイ島のホノカワという日系アメリカ人の住む

小さな町を舞台にした、ほのぼのとした映画である。

 

 監督は、真田敦。「いぬのえいが」という短編がある。

 

原作は、吉田玲雄。かれのハワイ滞在の体験を

つづった紀行文を軸としてつくられた映画である。

 

 そして、吉田氏本人も「トム」として映画に出演している。

 

 主演は、新人だった岡田将生。

そこに倍賞千恵子、松坂慶子といった、

大物がわきを固めている。

 

 わたしは、この映画で、ふたつ吃驚したことがある。

 

ひとつは、ホノカワという町の南側には、

標高4205メートルのマウナ・ケア山があり、

天候が安定していることから、各国の天文台が

設置されていることでも有名であり、

そのマウナ・ケア山のふもとにホノカワは

あるのだが、この映画では、このマウナ・ケア山が

いちども描写されていない、ということなのだ。

 

 それって、御殿場で映画のロケがあって、

いちども富士山が映されていないというのと

おんなじことなのである。

 

 だから、たしかにハワイらしい絵ではあるが、

マウナ・ケア山を描かなかったことで、

ある意味、抽象的空間がそこに具現された、ということである。

 

 換言すれば、土地を限定しないところに、普遍性がかもされる、

ということなのだ。

 

 そして、もうひとつのおどろきは、

主題歌である。小泉今日子の「虹が消えるまで」。

作詞、高崎卓馬。作曲、斉藤和義。

 

 ギターを弾くかたなら、おわかりだろうが、

斉藤和義の楽曲のコードはややこしくて

ゆびがつりそうになる。ま、それはそれとして、

倍賞千恵子演ずるビーさんが、まぼろしのように

窓辺にたって岡田くんの演ずるレオとわかれるシーンがあり、

それからしばらくしてエンドロールがながれるわけだが、

そのとき、こう歌がはじまる。

 

♪アイスクリームが

とけそうだから・・・

 

 ここで、わたしは愕然とした。

まず、なんで小泉今日子なのか。

吉田拓郎は、小泉今日子というひとつのブランドがある、

と言っていたが、まさしく、そこに小泉今日子がいるのである。

 

 この映画に、まったく関係ない、

歌手というより、女優の小泉今日子が、

あのやわらかい、ちょっとピッチが甘い声で、

♪アイスクリームが、とやるわけだ。

 

 で、だれでもそうなのだろうが、

待てよ、この映画でアイスクリームが出てきたのだろうか、

と、蒼井優と岡田くんの仲が

亀裂する冒頭のシーンから、

エンディングまで走馬灯のように

もういちどこの映画をおさらいすることになるのだ。

 

 けれども、たしかアイスクリームを食べるシーンは

どこにもなかったはずだ。

 

 つまり、この主題歌は、この映画全体と対峙しながら、

まったく関係性のないテーマで歌いはじめた、ということなのだ。

 

しかし、それにしても、この映画に底流する

まったり感や、ほのぼの感とじつに合っているじゃないか。

 

 ようするに、映画全体と主題歌とある意味の衝突があり、

その衝突を受け容れた観衆は、むしろ、

この主題歌があってこそ、この映画の質が

ドミナントに高められているということに

気づかされるわけである。

 

 閑話休題。

 

 映画といえば、「初恋のきた道」が印象にのこっている。

監督、チャン・イーモウ。主演、チャン・ツィイー。

たしか、チャン・ツィイーのデビュー作ではなかったか。

 

 チャン・イーモウは、一人っ子政策の違反で、

罰金1億3000万円を支払った男でいまは有名かもしれない。

たしか、隠し子が7人いたとか。

 

 それは、それとして、わたしが「初恋のきた道」で

関心したのは、それは、チャン・ツィイーのかわいらしさは、

天下一品おいておき、彼女の旦那さんが教師で、

さびれた農村に学校を建て、そこで教鞭をとるのだが、

その生徒の声はするのだが、いちども生徒が

映画に出てこない、ということなのだ。

 

 ホノカワボーイのマウナ・ケア山といい、

初恋のきた道の生徒といい、とうぜんあるはずのものが、

描写されない、という、このメカニズムはいったい

なにをわれわれに与えてくれているのだろうか。

 

 ひょっとすると観衆の想像力を引き出そうとしているのか、

あるいは、語らずに語ろうとしているのかもしれない。

 

 とにかく舌を巻く映画二本であったことは

まちがいない。

 

 「初恋のきた道」でついでにもうしあげるが、

先日、わたしの店にわたしの初恋のひとが

わざわざ東京都下からご来店くださった。

 

じつに半世紀ぶりの対面である。

ミエコちゃんが、彼女を連れてきてくれたのだ。

 

 小学校いらい会っていないのだが、

こうしてまた再会できたのは幸福というほかない。

 

 すでに、われわれは加齢していて

傍目からみれば、爺さん、婆さんかもしれないが、

しかし、わたしには、新鮮で素敵な時間と空間であった。

 

 わたしたち、三人は、そのあと

喫茶店にいき、昔話に花がさいたのは言わずもがなであるが、

おしゃべりなわたしは、なにかエンエン

トリビアルなことを言い続けた気がする。

 

 まったく映画の教えを学んでいないわけだ。

 

 

 ミエコちゃんもわざわざ鎌倉から、

そして彼女は成増に住んでいるということで、

わたしの小学校の同級生は、ひとりは成増に

ひとりは鎌倉に、ひとりはハワイにいる。