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店主日記

就職活動 (10月の話)

 昨日はひさしぶりに陽がさして

小春日和となった。

 

 昼過ぎに、いつもご来店くださる

学生さんのカップルに、

男の学生さんの三人でいらっしゃった。

 

 女性は、麺固に味付け玉子、

かならず刻みねぎをお求めになり、

男性は、サービスの家風ラーメン、

もうひとりの男性は、まぜそばをご注文。

 

わたしが、カップルの方の男性に

「髪、切られましたね」と声をかけたら、

「就活があるから」と笑いながら答えてくれた。

 

 そうか、もう就職活動の時期なのかなど、

まったく世の中のことを知らないわたしは、

のんきな体で「そうですか」と答えた。

 身なりはたいせつだから、とうぜんである。

 

 日本の就職活動はパラドクスに満ちている。

前にもおんなじことをもうしあけだが、

リクルートスーツにかばんに靴に髪型に、

すべて、みんなおんなじような姿で

出かけていって、それでいて個性やじぶんらしさを

宣言しなくてはならない。

 

 服装、せめて色合いくらい

ばらばらでいいじゃないか、と、わたしはそうおもうが、

「そんなことしたら落ちますよ」という答えが

返ってくるにきまっている。

 

 世の学生は、落ちることはわかっているけれど、

受かることはわかっていない。

 

 なんか不思議な気がする。

 

 

 就職活動に必須の条件とは「互恵的」な人材である。

 

 じぶんの意見を主張し、他者を排斥するような人物は、

会社としては不要なのである。

 

 まわりの意見を調整し、まわりを含んで

みずからを代表するような人材が好まれる。

 

 内田樹さんが、まだ大学教授だったころ、

ゼミ生募集の面接をおこなったとき、

先生がすこし遅れてきたとき、

いちばん前にすわっていた学生が「チッ」と言ったそうだが、

その人は、まずそこで失格だったそうだ。

 

 次女が、旅行会社の集団面接で、

彼女には、ほとんど質問されずに、

まわりのひとたちには、ずいぶん質疑があったらしく、

次女は「ぜったい落ちたよ」と、落胆して帰ってきたが、

わたしは「あ、それ受かっているよ」と答えてやった。

 

 なぜなら、採用しようとおもう人物に

質問しても意味がないからである。

 

 採用しないひとには、ていねいに質疑応答し、

失礼のないように帰宅してもらう。

 

 「ああ、気持ちのいい会社だった」

そう、おもわせて採用しない。

 

 なぜなら、そのひとが、いつこの会社の

お客になるともかぎらないからである。

 

 採用を決めた人は、面接中でも

ぞんざいにあつかってもかまわないのである。

 

 次女は、その点、ひとの意見をまとめるとか、

気の利いた返事をするとか、

どこで習ったのか、わりにうまくこなせるタイプだから、

わたしは、そこが人事部のひとに買われたのだと

いまもおもっている。

 

 長女は、いまは休職中だが、なかなか成績がいいらしい。

これは、口のうまさが功を奏しているとおもうが、

まちがいなく、これは父親ゆずりのはずだ。

 

 ところが、このふたりは、わたしを「人間失格」と

おもっているらしく、娘の母がわたしにラインを

送ってきたのだが、

「なんであんな人と結婚したのとふたりから、

怒られました♪」とあった。

 

「あんな人」とはもちろんわたしである。

「怒られた」とはどういう意味なのか。

そして、最後に音符がついていた。

その含意はよくわからないが、

どうも、わたしは、この三人からは不要な人物に

なっているようだ。

 

 

 店がしだいに混んできて、

いま、この三人の座っているうしろに、

四人の男子学生が立っている。

 

 じつは、この三人の右となりにひとつ、

三人の左となりに三つの席が空いているのだ。

 

 だから、四人様は、ばらばらにすわれば、

座れるのだが、昨今の学生さんは並ばなければ、

座らないのである。

 

 つよい仲間意識なのか、個別の行動を忌避しているのか、

よくわからないが、四人並ぶのを待っている。

 

 「おれ、ここに座るから、お前たちは、

こっちに座れよ、また、つぎにくるお客さんにも

悪いからな」

 という、リーダーシップをはかるような人物、

それこそ互恵的な人材はなかなかいないようだ。

 

 また、この三人の学生さんには、

うしろに四人立っているのがわかっているなら、

「じゃ、ぼくたち横にずれますから」と、

店全体を見回す気遣いは、なかなかできないのだろう。

わたしは、それが悪いともうしあげているのではない。

そもそも、にんげんは、そんなものなのだ。

それに、うちにご来店くださる学生さんは、

日本屈指の大学に進学されているひとたちなのだから、

能力的にずば抜けているはずだ。それでよい。

 

 しかし、就職活動にかぎっていえば、

就職活動で、もっとも必要なことは、

このような空間把握や、

互恵的な心持ちなのであり、

髪を切ることは二の次なのである。