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店舗案内

華燭

 今朝、スーパーに買い物にゆくと、

大きな冷蔵庫の棚のなかに「華燭」があった。

福井鯖江の日本酒である。

 

 「華燭」とは結構披露宴にちなんだ

名前で佐々木の家の酒である。

佐々木は、造り酒屋の店主であり、

大学時代の友人であった。

 

 学生時代、

いちどだけ佐々木家におじゃましたことがあったが、

なにしろ、造り酒屋、田舎の名家である。

何部屋もあって一泊しかしなかったため、

わたしは居間にいくのにも迷子になった始末である。

 

 いまもそうだが、そんなに酒のつよくない

わたしだから、佐々木が、いま取れた酒だと

持ってきてもらったときも、

たしかにうまいが、その価値は

のんべぇほどわからなかったのが

悔やまれる。

 

 わたしより一つ上のガタイのいい佐々木だが、

ひとつ苦手なものがあった。

ニワトリである。いや、ニワトリではなく、

ニワトリのとさかが怖いらしい。

 

 あの赤くてひらひらした、あれである。

 

 あれを見ると「おぅ」とかいって

逃げ出すのだ。

 

 ひとには、わけのわからない

弱点があるものだ。そんな佐々木も

病に勝てず、去年、亡くなった。

ガンだった。

 

 もうずっと前だが、

片山という佐々木の同郷の男もガンで亡くなった。

どちらも鯖江の出身で

日本海側が癌が多いとは聞くが、

奇しくも、福井の友人ふたりとも

ガンで亡くなるとは。

 

 このあいだ、野田さんが亡くなったのも、

片山とおなじくすい臓がん、星野さんもすい臓がん、

佐々木は胃癌だが、どうも友人はみな

ガンで亡くなる。

 

 そして、佐々木も片山も野田さんも星野さんも、

大事な仲間だったのだが、わたしはこの仲間の

葬儀に参列できなかったのが悔やまれて仕方ない。

みな、わたしの仕事のせいである。

仕事を休むわけにはいかないのである。

 じっさい、事後報告もあったので

仕方ないのもあるが。

 

 わたしは、スーパーの冷蔵庫から

華燭を一本とりだしレジに向かった。

 

 これがせめても供養になればとおもって。