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店舗案内

コンビニ解決法

 

鴨居大橋が架かってすこぶる

通勤に便利になったものの、

しょっちゅう使っていたセブンイレブンを

通ることがなくなってしまった。

セブンイレブンは他のコンビニよりも

食品関係の質がよい(ようにおもう)ので、

わたしは好んでセブンイレブンにゆく。

とくに、冷凍食品のシウマイはじつに美味で、

おまけに四つ二百円と手頃な値段もうれしい。

 しょっちゅう使っていたコンビニといっても、

問題もあった。早朝、毎日いるおねえさん、

この娘の「いらっしゃいませ」が清涼感のある、

いままでには聞いたことのない美しい響きなのであった。

おおげさでなく、早春の野に鳴くうぐいすの声のようなのだ。

だから、わたしは今年の夏は、ほとんど、このコンビニを利用した。

「いらっしゃいませー」

 心地よい響きが店内にこだまする。

と、毎日、通い詰めているうち、

わたしはひとつの事実に気づいてしまったのだ。

たしかに、このうぐいす嬢のさわやかさはそのままなのだが、

どうも「いらっしゃいませ」とは言っていないらしい。

「いらっしゃいませ」ではなく、

なんと言っているかと耳を澄ませば、

いつも、どの客にも、おんなじトーンとおんなじボリウムで、

「いらしゃせー」と言っているのである。

それに気づきはじめたら、なんだか、

わたしはとてもがっかりしてしまって、

三分咲きの梅の花にいたうぐいすも、

ただの雀のようにおもえてきたのだ。

彼女の発声は、まったくの感情のこもらない、

ただの信号だったのだから。

 それでも、あの澄んだひびきの持ち主はいったいだれなのか、

せめて名前だけでも確認しようと、

レジで名札を拝見しようとおもったのだが、

この雀は名札をしていないのである。

たまには札をくびから提げていたときもあるが、

そのときはそれを胸のポッケにしまっている。

(胸にポッケがあるのは、セブンイレブンの制服の欠陥だろう)

だから、今夏は、

この娘の名前をしらないままになってしまった。

そのうちに、わたしは、その娘の観察をするようになっていった。

雀はひどく歯並びが悪かった。歯並びが悪いというのは、

子供時代が裕福でない、という証拠なのだ。

もし、裕福な家庭なら、歯の矯正をしている。

いま、子どもで矯正をしているのは、

その家の収入の高さを物語るステイタスとなっている。

だいたい金持ちなら朝からコンビニで働かないや。

 渋谷あたりで、自転車で犬をひきながら

買い物にくるお嬢さんは、

かなり高年収の家庭とおもわれるが、

その子が矯正をしていたら、これは申し分ない。

 さきほど、問題があると述べたが、

じつは、問題というのはこうだ。

わたしが来店すると、うぐいすは、

いつものような澄みきった声で「いらしゃせー」とはいうものの、

すうっと店の奥に隠れてしまうようになってしまったのだ。

それが、いちどや二度なら偶然、ということもあろうが、

毎朝、毎朝、小雀は店の奥にはいってしまうのだ。

ひどいときなど、わたしと目が合うや、

レジにしゃがみ込んだのだ。よほど、

わたしが変質者に映っているものと見えて、

さすがのわたしもそれ以来、

あんまり足繁くは通わなくなっていったのである。

ひどい話である。これを誤解といわずなんと言おう。

ま、だから、大橋ができて、

セブンイレブンを使わなくなったのも、

ちょうどよかったかもしれないのだけれど。

で、大橋の手前のローソンで買い物をするようになったわけだ。

だが、ここの店主がいけない。言葉遣いがなっていないのである。

「七百五十六円です、ありがとうございます」と、

こうくればなんの問題もない。が、違うのだ。

「七百五十六円ですね」

 こう言うのである。なんだ、

この「ですね」は。名札にはオーナーと書いてある。

オーナー自らが、こんなぞんざいな口のききかたをしたんじゃ、

ここの店の品位もあったもんじゃない。

このあいだなんか、シウマイを買ったら、

「暖めますか」も聞きゃしない。それどころか、

箸もいれない。だから、わたしはすこし憤慨して、

「箸、いれてください」って言ったら、あの野郎はこう言った。

「あ、ありますよ」

 なんだ、この「ますよ」は。

名札にはオーナーと書いてある。オーナー自らが、

こんなぞんざいな口のききかたをしたんじゃ、

ここの店の品位もあったもんじゃない。

たかだか、ツーワードしゃべるだけでこれだけ、

ひとを頭に来させるんだから、たまったもんじゃない。

 そういえば、このあいだ、マクドナルドでもやられた。

アイスコーヒーをひとつ注文したのだ。

そうしたら、店員のおにぃちゃんがこう言うのだ。

「店内でお召し上がりでよろしかったでしょうか」

 なんだ、この「よろしかったでしょうか」は。

わたしはあんたとは初対面だよ。

よろしかった、というのは再確認だろが。

いちどや二度、店内で食べていて、

よーく、わたしを知っているのなら、

よろしかったでしょうか、と訊かれれば、

いいや、今日は持って帰ります、とか愛想良く言うのだが、

そうじゃないだろうが。

そんな間違った言葉遣いをされたんで、

わたしは、むっとなって、とても低い声で口を尖らせながら、

「持って帰るよ」

と、言ってやったのだ。と、

さすがに、おにぃちゃん、ちょっとひるみやがって、

びくっとした(ように見えた)。

そのせいだろうか、わたしが、

二百円わたすと彼は次にこう言ったのだ。

「二百円からお預かりします」

 なんだ、この「から」は。二百円お預かりします、

でいいだろ、なんにもわかってない奴だ。

わたしはいままで以上に腹が立ってきた。

と、この唐変木は最後のだめ押しにこう言ったのだ。

「十一円のお返しですね」

 なんだぁ、この「ですね」は。

「十一円のお返しです」でいいだろう。

あるいは「十一円のお返しでございます」と言え。

「十一円のお返しでございます、です」の方がまだましだ。

馬鹿たれ。あの大馬鹿は、

たったスリーワードのうち、

そのすべてがビッグミステイクだったのだ。

わたしは、すこぶる厭な気分でマクドナルドを後にした。

 で、わたしは考えた。マクドナルドで厭な気にならない方策を。

それは、すべて、間髪入れずにこちらでしゃべり続け、

店員にはしゃべらせない、これしかない。

「はあい、わたしはいらっしゃいましたよ。

いいんです。黙っていてくださいよ、

これからアイスコーヒーをひとつ注文しますんでね、

それをあなたは用意してください。

サイズはレギュラーで。

あ、ミルクもシュガーも要りません、

もちろん持って帰りますから、袋につめてください、

値段は百八十九円のはずですから、

わたしは二百円だすので、

あなたは十一円お釣りをくれればいいです。

お礼はいっさいいりませんから、さっさとしてください」

 と、こうなればなんの不快感も抱かずにすむ。

どうだ。と、ここでわたしはきづいた。

このやり方でローソンおやじにも接すればいいのだよ。

よし、こんど試してみるか。

しかし、セブンイレブン雀はすぐ逃げちゃうんで、

いまだ解決策が見つからない。