店主日記
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短歌のはなし、あれこれ

ある歌人、友人の歌です。

参考までに、感想などを。

 

・終息のきざしは見えず夏の来てこのまま逢へなくなりさうヨコハマ

 

助詞のつかい方はむつかしく「は」とか「て」は

とくに注意がひつようです。

「は」は内容を限定すると、泉下の阿部正路氏がおっしゃっていたとおり、

やはり気になる語です。また、接続助詞「て」は内容を切ってしまうと

お教えくださったのは下南卓夫先生です。

たしかに「て」は文脈を変更するちからがあるようです。

 

 

♪シャボン玉飛んだ 屋根まで飛んだ

 

この「屋根まで飛んだ」の主語は「シャボン玉」ですが、

でも、「屋根まで飛んだ」だけかんがえると、

強風で屋根が飛んだ、とも読めますね。

常識的にはありえないかもしれませんが、

文法的には「あり」です。

 

が、この歌の二箇所の「だ」、つまり「飛んだ」のくだりを

接続助詞「て」に替えてみると、

 

♪シャボン玉飛んで 屋根まで飛んで

 

撥音(「ん」の音)のあとは濁りますから「で」に

なりますが、これは接続助詞「て」です。

 

こうやってみますと、やはり「屋根」が飛んでいったように

さきほどの歌よりも、そう読めてしまいます。

 

これは、接続助詞「て」が内容を

強制的に分断させるチカラがあるからに

ほかなりません。

 

だから、「て」をつかうのは

むつかしいのです。

 

では、「は」や「て」をつかわずに、

そして、流麗に詠むにはどうすればいいのでしょうか。

 

たとえばこうなります。

 

終息のきざし見えずに夏の来るこのまま逢へなくなりさうヨコハマ

 

個人的には、下の句があまり気に入りませんが、管見ですが、

さきほどの作品よりも凸凹感がなくなっているのではないかとおもいます。

三句目に「て」がくると、素人っぽくなるんですよね。

 

 

では、次の歌。

 

 

・いづれゆく道も近しと笑ふ君ソフトクリーム手に溶けだして

 

無難な歌ですね。ただ、三句切れで、結句の「て」止め。

これは、だいたいいましめられる骨格です。

(しかし、この作品はそれがあんまり気にならないのですけれど)

 

でも、やはり、三句で切れて「て」でおわるのは

お手本としてはやはりNGということに。

ただ、無難とはもうしましたが、

この作品の「どこ」がメインなのでしょうか。

「笑ふ」なのか「手に溶けだし」なのでしょうか。

 

この作者の作品の特徴は、どこをひっぱりだしても

テーマ性があるところです。

財津和夫の歌は、どこをとっても聴きどころのあるように

作曲しているらしいですが、それと類比的に、

どの箇所にも力を入れて作歌しているようにみえます。

初句にも腰の句にも結句に、言いたいことがあるんです、

と、宣言しているようにみえるのです。

 

わたしは、この作者の師でもありませんから、

その作家態度を否定するものでも、肯定するものでもなく、

ただ、感想をもうしているだけですが、

短歌はどう詠むかではなく、どう詠まないか、

だとおもっています。

 

つまり、言いたいことを散りばめない、ともうしてもいい。

なるべく一点に集中して詠む、というのが

わたしの歌の立ち位置です。

 

と、それを踏まえればどうなるか、

たとえばこうです。

 

 

・いづれゆく道も近しといふ君のゆびに溶け出すソフトクリーム

 

こうすると、ソフトクリームにフォーカスされます。

しかし、読者は、そこにテーマがあることを知りつつ、

彼岸と此岸の境界にいるだろう「君」への

「生」への葛藤のようなものにおもいを馳せるのです。

 

説明しすぎると、読者の想像への空白が希釈されますので、

語りすぎない、という作家態度がよいのではないかと

ぞんじております。

 

 

さてさて、次の歌。

 

・今すこし君との時間くださいと願ふコロナ禍ふづきつごもり

 

リアルな歌ですね。ただ、作者も承知しているとおもいますが、

下の句が弱すぎます。

「いいかね、コップがコップでなくなるくらい

見つめることだよ」と、短歌のエライ先生は言ったとか、

言わないとか。

ようするに、コップにこめられた含意を汲み取れ、

もっと言えば、コップという語を失って作歌せよ、

という教えなんでしょう。

 

わたしたちは、名づけると、そのものの本質を

見失うという性情を偶有していますから、

言葉に頼りすぎると、中身のない作品になってしまいます。

 

林檎という語をつかわずに果物屋さんで

林檎を買うことのむつかしさをかんがえれば、

名づけるということの性質がわかるはずです。

 

それにしても「コロナ禍ふづきつごもり」はいただけない。

 

名詞の羅列だしね。

 

「カメラのさくらややすさ爆発」と

おんなじ構造ですからね。

 

 

また、「ください」と「願ふ」も重複ですし。

 

まあ、とにかくリリカルにいきましょうよ。

短歌らしい装いで。

 

 

・天変の世の中なりきふみづきの風よかれとの時間くれぬか

 

こんな感じかな。